スマホだけで建物まるごと構造設計をしてみた。

 

 
P投げ銭!

平成30年8月4日

 今や、誰もが手から離せないスマートフォン。パソコンを使わない人も増えたと言う。
 構造計算のアプリもチラホラ出てきた。
「スマホだけで建物まるごと構造設計ができるか?」を検証するためにスマホだけで建物の構造設計一式にチャレンジしてみました。
 使うのはスマートフォンアプリ、Webサービス及びスマートフォンの電卓及びメモ帳のみとします。



建物概要、設計方針


構造・規模:鉄骨造平屋建て

用途   :倉庫

形状   :X方向 6.0m、4.0m、6.0mの
      3スパン
      Y方向 8.0mの1スパン
      階高 4.0m

延べ面積 :128㎡

仕上げ  :屋根折版
      外壁サイディング貼り
      床RCスラブの上、防塵塗装

設計ルート:ルート1-2

架構形式 :X方向 ブルース架構
      Y方向 ラーメン架構

積雪荷重 :積雪量30cm、一般地域

風荷重  :34m/s、地表面粗度区分Ⅲ

地震地域係数:1.0

設計方針 :スマホで出来る限り


設計荷重の算定

まずは、設計荷重表。これはスマホのメモ帳と電卓を使って作成。

(1)固定荷重
 屋根
  折版 200
  天井 150
  (鉄骨 300)
 ───────────────────
 合計 350(650)N/㎡

 床
  仕上げ 100
  コンクリート(t=150) 3600
 ───────────────────
 合計 3700 N/㎡

 外壁
  サイディング 200
  胴縁等    300
 ───────────────────
 合計 500 N/㎡


(2)積載荷重及び総荷重
 早速、Webサービスを利用。てんま構造様のWeb funkで積載荷重が調べられます。


屋根 床・小梁用 架構用 地震用
DL  350    650   650
LL   0     0    0
TL  350    650   650

床  床・小梁用 架構用 地震用
DL  3700   3700  3700
LL  4000   3000  2000
TL  7700   6700  5700




(3)積雪荷重
 30cm × 20N/㎡・cm = 600N/㎡

(4)地震荷重
 ・地震用重量
  屋根 0.65×16.0×8.0=83.2
  外壁 0.50×(16.0×2+8.0×2)×4/2=48.0
  ──────────────────────
  合計 131.2kN

 ・地震荷重
  0.30(Ci)×131.2=39.4kN

(5)風荷重
 これもWeb funkを利用。基準風速、地表面粗度区分、建物高さを入力すると速度圧が計算出来ます。


速度圧 q= 828 N/㎡
風荷重 X方向 0.83×8.0×4/2 =13.3 kN
    Y方向 0.83×16.0×4/2=26.6 kN

他にも『構造電卓 荷重』と言うアプリで、固定荷重表、積載荷重表の他、地震荷重、風荷重、積雪荷重の算出が出来ます。

二次部材の設計

 もちろん使うアプリは、『スマホで構造計算!』


 ストラクチャー社の「RCチャート」「Sチャート」のスマホ版アプリです。 RC関連で「スラブ」「小梁」「地下外壁」「独立基礎」「連続基礎」「杭基礎」「擁壁」 鉄骨関連で「小梁」「間柱」「胴縁」の構造計算の計算が出来ます。
Android版iPhone版もあります。 普段、仕事でも「RCチャート」「Sチャート」PC版を使っているので使用方法は慣れたもの。


※本記事作成時は『スマホで構造計算!』はiPhone版のみであり、Androidスマホを使っている私はiPad(タブレット)にて行っている事をご了承ください。

(1)鉄骨部材の設計
  屋根小梁:H-250×125×6×9


  胴縁:C-100×50×20×2.3@500


(2)RC部材の設計
 同じく、『スマホで構造計算!』でスイスイ。

  スラブ:t=150、短辺方向D13@200ダブル、長辺方向D13@250ダブル


  小梁:B×D  350×700
         端部   中央
     上端筋 4-D19   4-D19
     下端筋 4-D19   6-D19
     STP   D10@200



主架構の応力計算

 いよいよ、主架構(メインフレーム)の設計です。
 残念ながら、スマートフォン用の一貫構造計算アプリと言うのは存在しません。フレームの応力計算をするアプリ、Webサービスと断面算定アプリを駆使して、設計するしかない。 まずは、そのための準備計算。スマホのメモ帳と電卓機能でサクサク。

(1)柱軸力の算定
 ※( )内は積雪時

 X1-Y1
 屋根 0.65(1.25)×3.0×4.0=7.8(15.0)
 外壁 0.50×3.0×4.0/2=3.0
 ──────────────────────
 合計 10.8(18.0) kN

 X2-Y1
 屋根 0.65(1.25)×5.0×4.0=13.0(25.0)
 外壁 0.50×5.0×4.0/2=5.0
 ──────────────────────
 合計 18.0(30.0) kN

(2)水平力分担
 X方向はブルース4構面、Y方向も4フレームなので負担水平力は以下の通り
 39.4/4=10.0kN

 風荷重は地震力よりも小さいので検討は省略です。

(3)X方向フレームの応力計算
 梁はピン接合なので、『スマホで構造計算!』を使って、断面算定まで、一気に終了。検討は積雪時で決定。

  大梁:H-250×125×6×9



 そして、ブルース架構の応力計算は、てんま構造さんのWeb Funkを利用して、算定。



 X方向は無事に応力計算終了。問題はY方向のラーメン架構の応力計算。鉛直荷重に対する計算は目処が付いているが、 問題は水平荷重に対する応力計算。アプリ、Webサービスを探さなければ。。。

(4)Y方向フレームの応力計算
 まずは、鉛直荷重による応力計算。


 これは、ストラクチャー社の『かんたん骨組』と言うアプリで計算出来ます。断面算定までしてくれます。
 常用される8つの骨組形式の鉛直荷重に対する応力を算定出来ます。解析手法は変位法 ( 剛性マトリクス法 ) です。



 入力のための準備計算。
  P = 0.65(1.25)×2.0×5.0 = 6.5(12.5) kN
   ※( )内は積雪荷重時

 仮定断面は梁:H-300×150×6.5×9、柱:□-200×200×6とする。これを『かんたん骨組』入力して、応力計算。



続いて、断面算定。
 大梁:H-300×150×6.5×9



 柱:□-200×200×6



 応力及び検定比は、M = 8.8 kN・m(0.20)、N = 9.8 kN(0.02)

 柱軸力は、常時18.0kN、積雪時30kNであるので、検定比は、
 常時  18.0 / 9.8×0.02 = 0.04 < 1.0 OK
 積雪時 30.0 / 9.8×0.02 / 1.5 = 0.04 < 1.0 OK

 積雪時の曲げ検定比は荷重比率から、
0.20 × 1.25 / 0.65 / 1.5 = 0.26 < 1.0 OK
 曲げ、軸力の組み合わせも常時 0.24、積雪時 0.30 < 1.0でOK

 残すはY方向の地震時の検討。今のところ、計算アプリやWebサービスが見つからず。。。ここで断念か?!


 アプリ、Webサービスが見付からず、いっその事、手で解くかと思っていた所、見付けました。 と言うか、『建築構造設計べんりねっと』のリンク集にありました。(笑)
 エンジニアズ・ブックと言うWebサービスです。応力計算や断面性能計算、その他様々な技術計算が出来る凄いサイトです。スマートフォンでも使えます。

 応力計算結果はこちら


 地震時応力
  M = 20 kN・m
  N = 5.0 kN

 全ての応力計算が終わりましたので最終の断面検定です。

断面算定

(1)梁の断面検定
  Ms = 8.8 + 20 = 28.8 kN・m
  常時荷重時の検定比との比率より、
  28.8 / 8.8×0.27 / 1.5 =0.59 < 1.0 OK

(2)柱の設計
  Ms = 28.8 kN・m
  Ns = 14.8 kN

  同じく、時の荷重時の検定比の比率から、
  曲げ 28.8 / 8.8×0.20 / 1.5 = 0.44
  軸力 14.8 / 8.8×0.02 / 1.5 = 0.03
  合計 0.44 + 0.03 = 0.47 < 1.0 OK

(3)ブルースの設計
 ブルースの設計は『建築構造設計べんりねっと』の公式集から、ブルースの計算表で確認。
  M16: Na = 38.6 kN > 18.0 3kN  OK

 鉄骨の断面検定は他にも「新日鉄住金 建設用資材ハンドブック 建築用材」と言うアプリでも出来ます。

基礎の設計

 最後は基礎の設計です。
 条件は以下の通り
  基礎形式:直接基礎(独立基礎)
  基礎下端:GL-0.80m
  地耐力 :100 kN/㎡
  礎柱  :560×560(ベースパック保有耐力接合タイプ)

 まずは、スマホのメモ帳と電卓で軸力の算定。

 X1-Y1
  屋根 0.65×3.0×4.0=7.8
  外壁 0.50×7.0×4.0=14.0
  床  6.70×3.0×4.0=80.4
  梁  24.0×0.5×0.9×7.0=75.6
     24.0×0.35×0.7×3.0=17.7
  ──────────────────────
  合計 195.5kN

 X2-Y1
  屋根 0.65×5.0×4.0=13.0
  外壁 0.50×5.0×4.0=10.0
  床  6.70×5.0×4.0=134.0
  梁  24.0×0.5×0.9×9.0=97.2
     24.0×0.35×0.7×3.0=17.7
  ──────────────────────
  合計 271.9kN

(1)基礎の設計
 基礎の設計も『スマホで構造計算!』を使用



(2)地中梁の設計


 X方向大梁は地中小梁と同等以上とし、以下のようにします。
  B×D 350×900
       端部   中央
  上端筋 4-D19   4-D19
  下端筋 4-D19   6-D19
  STP   D10@200


これで、建物全部の構造計算が完了です。スマホだけで建物まるごと構造設計できた!

 構造図が無いって?スマホアプリでCADアプリは多数あり、スマホで図面も作れますが、あまりに面倒なので勘弁を。



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